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卵が熟すと短い輸卵管を通して、外套腔に産み出され、漏斗から外に出されます。イカの卵は裸ではなく多かれ少なかれ寒天質の袋(卵嚢《らんのう》)に入れて産み出されます。
コウイカ類は厚い卵嚢に包まれた卵を1粒ずつ海底に沈んでいる木の枝や漁網や刺胞動物の枝などに産みつけます。捕食者の眼を逃れるためか卵嚢表面に砂粒をつけたり(コウイカ)、墨で黒くおおったり(シリヤケイカ)します。サンゴ礁にすむコブシメは石サンゴの枝の奥深く隠すように産みつけます。ダンゴイカ類は海底の砂粒の間にやはり1粒ずつを塊にして産みますが、外敵から卵をまもるために外側を砂粒だけではなくチクチクする海綿の骨片でおおう種もありますし、海綿の胃腔のなかに産みつけるものもいます。
アオリイカの産卵とヤリイカの卵嚢(撮影:小川 保)
ケンサキイカやヤリイカの仲間はえんどう豆のさやのような寒天質の卵嚢に入れて産みます。ケンサキイカでは一袋に200〜400粒入った卵嚢を砂地に植えつけるように産みつけます。ヤリイカは30〜50粒入っている卵嚢を岩棚の下に吊るしたり岩の上などにいっぺんに数十袋産みつけます。
スルメイカの卵塊(撮影:桜井泰憲)
スルメイカのように沖合にすむイカは卵を産みつける場所がないので浮遊性の卵塊を産みます。卵は直径60〜80cmにもなるゆるい寒天質のボールのなかに数千粒の卵が含まれています。天然の海中では滅多に見つかることはありませんが、カリフォルニア湾ではアメリカオオアカイカの巨大な卵塊(直径約3m)が見つかってます。また、2015年には函館の国際水産・海洋総合研究センターの大型実験水槽で北大名誉教授桜井泰憲博士は自然状態に近い形でスルメイカを産卵させることに成功し、水中に浮遊する大きな卵塊が観察されました。
ソデイカの浮遊卵塊
(撮影:鈴木貞男)
ホタルイカの卵は細いそうめんのような寒天質の糸のなかに一列に並んで産み出されます。しかし、寒天質のケースはゆるいので卵はすぐにばらばらになってしまいます。
沖縄の深いところから釣り上げられるソデイカ(沖縄では“せいいか”という)の産む浮遊卵塊は古くからよく知られています。長さ1m、直径15cmくらいのソーセージ型の寒天塊で、なかには無数の卵が螺旋《らせん》状に配置しています。わが国でも黒潮の洗う海岸近くにしばしば流れ着いて話題になります。