頭足類の分類
A. 形態分類用語

これまでの分類は外形的な標徴や内部の解剖学的特徴に基づいていたが、電子顕微鏡が汎用されるようになって、さらに微細な構造も利用されてきた。しかし最近の生化学・分子系統学的手法およびデータのコンピュータ処理技法の飛躍的な発達によって系統・進化速度などの定量的な情報が提示されるようになって、系統分類は大きく見直されることになった。

本書は系統を論ずる以前に種を形態的にいかに識別するかを目的として編纂されたものであるから、肉眼的な外部形態的特徴を記述するスペースしかない。ここに本書を利用するについて用いられているイカの体各部の名称を示した(図1)。

頭足類の分類学的記載の指針は Roper & Voss (1983) によって示されたが、その要項や新形質として注目された顎板や平衡石については奥谷 (1995) にも解説したので参照されたい。

図1.部位名称及び測定部位(A〜G)
図1. 部位名称及び測定部位
  • A. コウイカ類右側面図
  • B. 口部周辺(囲口膜連結は第 I, II, IV腕は背側、III腕のみ腹側の例)
  • C. 漏斗内部付近
  • D. コウイカ類貝殻背面図
  • E. 同上腹面図
  • F. ツツイカ型イカ類軟甲背面図
  • G. 同上右側面図(終円錐のあるもの)
  • H. ツツイカ型イカ類腹面図
  • I. 触腕掌部口側図
  • J. 吸盤が鉤に変化したもの
  • K. ツツイカ型イカ類背面図
  • L. 腕口側面図(吸盤の一部は鉤に変化している)
  • M. 吸盤角質環
  • N. ツツイカ型開眼類頭部右側面図
図1.部位名称及び測定部位(H〜N)

頭足類の分類
B. 科の分類

イカ類は軟体動物門(Mollusca)、頭足綱(Cephalopoda)中、現生の鞘形亜綱(Coleoidea) [=二鰓亜綱(Dibranchia)]中のトグロコウイカ目(Spirulida) 1科、コウイカ目(Sepiida) 2科、ダンゴイカ目 (Sepiolida) 2科、ツツイカ目 (Teuthida)28科に属するものをいい、その4目を十腕形上目(Decembrachia)とする。鞘形亜綱の他の2目すなわちコウモリダコ目(Vampyromorpha)および八腕目(Octopoda)は八腕形上目(Octobrachia)に分類される。

イカ類(=十腕形上目)の科数や配列は研究者により諸説があるが、本書ではほぼSweeney & Roper (1998)の用いた系を修飾したものを用いてある。

十腕形上目 Superorder DECEMBRACHIA

コウイカ目 Order SEPIIDA

コウイカ科 Family Sepiidae

殻は石灰質で舟形ないし柳葉型で厚い。外套膜はドーム型。鰭は外套膜側縁の全長に及ぶ。腕吸盤は例外を除いて4列。触腕吸盤は基部・中央部・先端部のように分化しない。3属120種前後。

トグロコウイカ目 Order SPIRULIDA

トグロコウイカ科 Family Spirulidae

殻は多室で螺旋型に巻く。外套膜は円筒形で鰭は小さく櫂形。1属1種。

ダンゴイカ目 Order SEPIOLIDA

ミミイカダマシ科 Family Sepiadariidae

外套膜は短くて丸く貝殻を欠く。鰭は丸い耳型。頭背部は外套膜と癒着してひと続きで、外套膜と漏斗は靱帯で接着している。腕吸盤は基部2列先端4列。交接腕は左IV腕。触腕吸盤の分化はない。2属8種。

ダンゴイカ科 Sepiolidae

外套膜は短く丸く軟甲を持つものがある。鰭は丸い耳型。外套膜と漏斗は癒着しない。腕吸盤は2列。交接腕は多くはI腕又はII腕。触腕吸盤は微小で多数列。外套腔に発光器を持つものが多い。ボウズイカ亜科・ダンゴイカ亜科・ヒカリダンゴイカ亜科の3亜科からなる。14属約50種。

ヒメイカ目 Order IDIOSEPIIDA

ヒメイカ科 Family Idiosepiidae

小型で外套膜は円筒形。鰭は小さい耳型。外套背面後部に粘着装置がある。軟甲は退化的。腕吸盤は2列。雄両IV腕が変形する。1属7種。

ツツイカ目 Order TEUTHIDA

(閉眼亜目 Suborder Myopsida)

アラフラジンドウイカ科 Family Australiteuthidae

外套膜は短く、鰭は半円形。眼は鞏膜に被われる。腕吸盤に顕著な二次性徴がある。漏斗軟骨は亜円形で溝はブーメラン型。直腸上に亜鈴型の発光器がある。1属1種。

ヤリイカ科 Family Loliginidae

中・大形で外套膜は長円錐形。後部が尾部で終わる種もある。鰭は菱型 (ヤリイカ亜科)、外套膜側縁に亘る長楕円形 (アオリイカ亜科) 又は体後端位で櫂型 (ピックフォードイカ亜科)。腕吸盤は2列。交接腕は左IV腕。触腕吸盤は分化していない。多くは囲口膜は7尖葉で、小吸盤をもつ。漏斗軟骨器は単純な柳葉状。軟甲は幅広くササの葉型。直腸脇に発光器をもつものがある。最近の分類では11属とするが、なお細分論が継続中。約47種。

(開眼亜目 Suborder Oegopsida)

ヒカリイカ科 Family Lycoteuthidae

大部分は小型(外套長10cm以下)全体細く、鰭は菱形。腕吸盤は2列。触腕吸盤は4列で鉤はない。漏斗軟骨器は単純。囲口膜は8尖葉でIV腕との連結は背側。外套腔と眼球に発光器がある。触腕柄や腕に発光器をもつものもある。4属6種。

ダイオウホタルイカモドキ科  Family Ancistrocheiridae

大形で、外套膜は円錐形で柔軟。鰭は亜菱形で外套膜側縁全長に及ぶ。腕にも触腕にも鉤がある。外套膜上、頭部、触腕柄部に発光器がある。1属2種。

マダマイカ科 Family Pyroteuthidae

外套膜は円錐形で後端は軟甲が硬化している。鰭は丸い。腕吸盤は一部鉤に変わる。触腕吸盤も鉤となるものとならないものがある。外套膜表面や頭部に発光器はないが、眼球、外套腔、触腕柄及び内臓上に発光器がある。2属6種。

ホタルイカモドキ科 Family Enoploteuthidae

小型で外套膜は円錐形。鰭は菱形。腕吸盤は2列(稀に4列)で一部は鉤に変形している。触腕吸盤は一部鉤になる。固着器は明瞭。漏斗軟骨器は単純。囲口膜は8尖葉でIV腕との連結は背側。外套膜、頭部背側、腕の一部及び眼球にレンズのある発光器を持つ。4属44種。

ツメイカ科 Family Onychoteuthidae

体は筋肉質でスルメイカ型。軟甲は堅牢で、終円錐が発達している。一部のものは頸襞が著しい。腕には2列の吸盤があり、触腕の掌部中部(manus)は鉤が2列並ぶが、先端(dactylus)は4小吸盤列、基部(carpus)には円盤状に区画された固着器がある。一部の種は直腸上に発光器を持つ。5属12種。

テカギイカ科 Family Gonatidae

中〜大型。外套膜は細長い円錐形。鰭は後位で菱形ないしは心臓型。腕には4列の吸盤があり多くの種では中2列は鉤になる。触腕には多数列の吸盤があるが、そのうちの数個が鉤になる。触腕を欠く属もある。発光器は1種にしか認められない。5属21種。

ヤツデイカ科 Family Octopoteuthidae

大形で体は半寒天質様。外套膜は円錐形で柔軟。鰭は丸みのある菱形で、外套膜側縁の全長に及ぶ。体表の色素は濃い。腕は短く鉤が2列あり、先端に発光器がある。触腕は成体で失われる。囲口膜へのIV腕の接着は腹側。2属8種内外。

ウチワイカ科 Family Cycloteuthidae

小〜大型。外套膜は円錐形。鰭は丸く大きく外套長の70%を超える。体表、眼球、内臓のいずれかに発光器を持つ。腕吸盤は2列、触腕吸盤は4列。漏斗軟骨器は三角形。囲口膜はIV腕腹側に連結。2属4種。

ゴマフイカ科 Family Histioteuthidae

外套膜は吊り鐘型。鰭は丸く、両葉は後縁で連絡する。左眼は右眼より大きく、頭部は不相称。腕吸盤は2列。触腕掌部はやや曲がり5〜8列の吸盤がある。外套膜、頭部、腕反口側に特殊な発光器が並ぶ。1属17種。

ナンキョクイカ科 Family Psychroteuthidae

外套膜は円錐形で、鰭は後位で菱形。漏斗軟骨器は単純。腕吸盤は2列。III腕先端に発光器がある。触腕掌部はやや曲がっていて、吸盤は4列以上。基部(carpus)の吸盤と肉瘤は明らか。囲口膜はIV腕の背側に連結。軟甲は薄く柳葉型で、後端は丸く浅い盃状。1属1種。

ウロコイカ科 Family Lepidoteuthidae

中〜大型で、外套膜は円筒形で、表面には軟骨様の鱗型または多角形の顆粒に被われる。鰭は菱形または丸い。腕吸盤は2列、触腕吸盤は4列。囲口膜はIV腕の腹側に連結。3属5種であるが、2属をヤワライカ科に分ける説もある。

ナツメイカ科 Family Bathyteuthidae

小型で体色が濃い。外套膜は円筒型で鰭は小さく丸く離れている。頭部は大きく眼は前方を向く。I〜III腕の吸盤は2〜4列、IV腕では2列。触腕掌部は広がらず8〜10列の微小吸盤が密生する。I〜III腕間の傘膜は広く腕基部に発光器がある。囲口膜には小吸盤がある。1属3種。

ホソヒレイカ科(**) Family Neoteuthidae

小型。外套膜は長い吊り鐘型。鰭は丸く後縁は外套膜後端を超え、前縁は遊離しない。腕吸盤は2列。触腕掌部中部・先端には吸盤が4列並ぶが基部(carpus)には極めて多数の小吸盤が密生する。囲口膜はIV腕の背側に連結する。発光器はない。3属4種。

ダイオウイカ科 Family Architeuthidae

巨大型。外套膜は長円錐形。鰭は長卵円形。腕吸盤は2列。触腕掌部中部・先端部の吸盤は4列であるが、基部(carpus)に密生する多数の小吸盤群は柄部の小吸盤と肉瘤が交互の列と連続する。漏斗軟骨器は単純。囲口膜はIV腕の背側に連結する。発光器はない。1属。大型になるのは全世界で1種であるが、小型種もある模様。

ヒレギレイカ科 Family Chtenopterygidae

小型。外套膜ドーム型。鰭は外套膜側縁全長に亘るが櫛歯状に並ぶ条葉は薄膜によって支持される。腕吸盤は2列であるが、先端では4〜6列となる。触腕には8〜14列の吸盤が密生する。外套腔内に発光器がある。1属3種。

クビナガイカ科 Family Brachioteuthidae

小型。外套膜は細長く、鰭は菱形後位。腕は細く、吸盤は2列。触腕掌部は拡大して多数列の吸盤がある。漏斗軟骨器は単純。囲口膜はIV腕の腹側に連結する。幼期には頚部が長い特殊な形態をとる。2属7種。

コウモリイカ科 Family Batoteuthidae

外套膜は細長く、後部は尾状に終わる。鰭は短く楕円形。漏斗軟骨器は単純。腕吸盤は2列。触腕の80%に6列の吸盤が並ぶ。囲口膜はI・II腕の背側、III・IV腕の腹側に連結する。1属1種。

アカイカ科 Family Ommastrephidae

外套膜は円筒型、後部は円錐形になり、鰭は後位で菱形でいわゆるスルメイカ型。漏斗軟骨器は逆T字型。腕は堅牢で保護膜は広く吸盤は2列。II・III腕の反口側の泳膜は顕著。雄のIV腕は交接腕化する。触腕吸盤は4列で、固着器は明瞭。囲口膜はIV腕の背側に連結。アカイカ亜科・スルメイカ亜科・マツイカ亜科の3亜科に分類される。発光器はアカイカ亜科の外套膜、直腸上などに現れる。11属22種。

ソデイカ科 Family Thysanoteuthidae

外套膜は円錐形。鰭は菱形で外套膜側縁の全長に及ぶ。漏斗軟骨器は横向きのT型。III腕の保護膜は極端に広がる。腕吸盤は2列。触腕吸盤は4列。1属1種。

ミズヒキイカ科 Family Magnapinnidae

(幼体)外套膜は短い円錐形で鰭は細い尾部に亘り広い心臓型。漏斗軟骨器は卵円形。腕吸盤は2−3列。触腕掌部の吸盤は分化せず多数列で先端部には吸盤を欠く。1属3種。

ユウレイイカ科 Family Chiroteuthidae

体は寒天質。外套膜は円錐形で、後方は長い尾になり丸い鰭の後に二次鰭のあるものもある。漏斗軟骨器は盃型で中に1〜2の突起がある。腕吸盤は2列。触腕掌部は柳葉状に広がり4列の吸盤があるが長い柄を持つ場合もある。眼球の周り、外套腔、腕、触腕に発光器があるものを含む。囲口膜のIV腕の連結は腹側。従来トックリイカ科とされていたもの(1属1種)も本科に含まれるとされる。5属16種内外。

ムチイカ科 Family Mastigoteuthidae

体は寒天質で体表の色素が濃く疎らに発光器を散らす。鰭は円形。漏斗軟骨器は丸い盃型。IV腕は膨大する。各腕吸盤は2列。触腕は細く掌部は広がらず無数の小吸盤が密生する。囲口膜はIV腕の腹側に連結する。前科と併合させる意見もある。2属18種。

オナガイカ科 Family Joubiniteuthidae

外套膜は細長く、後部に長い尾をもつ。鰭は小さく楕円形。腕は長く、吸盤はI〜III腕には6列、IV腕には4列。触腕掌部は僅かに広がり、8〜10列の微小吸盤がある。軟甲翼部は後端腹側へ曲がる。1属1種。

ダルマイカ科 Family Promachoteuthidae

外套膜は吊り鐘型。鰭は丸く大きい。外套膜は頚部に癒着。漏斗軟骨器は盃型。腕は短く、吸盤は2列。触腕は著しく太いが掌部は広がらず8列以上の微小吸盤がある。囲口膜はIV腕の腹側に連結。1属5種。

サメハダホウズキイカ科 Family Cranchiidae

中〜巨大型。外套膜は頭部と癒着していて、他科のような漏斗・外套軟骨器による嵌合構造がなく頸軟骨器もない。外套膜は樽型ないし円錐形。鰭は櫂型から紡錘形。眼は幼期はしばしば有柄であるが、成体では丸く大きく種々のタイプの発光器を備える。腕吸盤は2列。触腕掌部の吸盤は4列で中央列が鉤に変形するものもある。また触腕柄部にも疎らな吸盤列がある。発光器は眼球のほか、腕先端や外套腔にもあらわれる。サメハダホウズキ亜科とクジャクイカ亜科に分けられ、約30種。